『自衛官の心意気』書評
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自分ではない誰かの為に~For someone that is not oneself~
・日本への評価を転換させたぺルシャ湾での機雷掃海
・撃たない国防
・足を縄で縛られたサッカー選手
・後顧の憂いを無くせ

 

【書評】

著者はフリーアナウンサーとしてキャリアをスタートさせ、ディレクターとしての活躍(『はなまるマーケット』(TBS)などを制作)を経て、近年では、防衛・安全保障問題のジャーナリストとして、メディアへの記事執筆、ネットチャンネル「チャンネルくらら」のレギュラーとして大活躍中の“美佐姉”こと、桜林美佐さん。
 
本書は“美佐姉”による徹底した現場取材のもと、

・いかに自衛隊が“自分ではない誰かの為に”、日夜、死と隣り合わせの任務に従事しているのか
 
・それに反して、憲法や自衛隊法などの法的な部分においては“足を縄で縛る”が如く自衛隊を束縛していること
 
・また、現場の自衛隊員の待遇面の改善は抜き差しならないレベルになっていること。


これらのことがよく分かる一冊となっています。
 
■自分ではない誰かの為に
東日本大震災や度重なる自然災害における救助活動など、近年ますますその活躍が目覚ましい自衛隊。
また国連のPKO(平和維持活動)への派遣などでも着実な実績を残しており、その活動の質の高さは世界に誇れる水準だと言われています。
 
ですが、自衛隊を取り巻く環境は厳しく、極めて強い法的制限の他、装備、人員、備蓄も充足しているとは言い難い状況のようです。
 
では、“何”が自衛隊の質の高さを支えているのか-。
 

For someone that is not oneself. (自分ではない誰かの為に。)


”自衛隊の心意気”を表す、この一言に尽きるのではないでしょうか。
 
■日本への評価を転換させた現場力~ペルシャ湾での機雷掃海~
自衛隊が国際的に評価されるようになったきっかけとして本書で取り上げられている1991年に実施された機雷掃海部隊のペルシャ湾への派遣について紹介したいと思います。
 
それまで憲法上の制約のため、自衛隊の海外派遣をしていなかった日本は、湾岸戦争に端を発する多国籍軍としての活動として、自衛隊を派遣する代わりに資金の拠出という形で対応していました。
 
それはそれで、まったく意味のないことだとは思いませんが、湾岸戦争に伴う国際協調のために自国の兵士を派遣していた他の諸外国からはどう見られるでしょうか?
 

「日本は金だけで済ますのか」
 
「たった1万円で、貴国のシーレーンを我が国の若者が命がけで守るのか」
 
「なぜ、日本は他国に血を流させるのか」

 
との声が上がるのも無理からぬことであったと言えます。
 
そうした中、苦肉の策として発案されたのが機雷掃海隊の派遣でした。
そもそも海外へ出向くなどを想定いなかったため通信設備などもまるで海外仕様になっていない掃海艇を突貫工事で改修し、モンスーンと台風が吹き荒れる4月のインド洋を5,00トンにも満たない木造の掃海艇で渡るなど、旅路そのものが危険極まりないなか実行された派遣-。
 
やっとのことで目的地に着き、ようやく着手し始めた機雷掃海も死と隣り合わせの連続だったようです。
自衛隊が到着した時にはすでに、撤去しやすいものは、あらかた諸外国の軍隊が撤去しており、残されていた機雷は、撤去しづらく、作業も難しい、誰もやりたがらないものばかり。
 
遅れてやってきた自衛隊掃海部隊への評価は、その難儀な「残り物」の処分にどれほど成果を上げるかに掛かっていました。
ですが、自衛隊掃海部隊は遅れてやってきただけでなく、掃海のための装備も各国に大きく後れをとる有り様。
にもかかわらず、自衛隊掃海隊は34個もの機雷撤去を成し遂げたのだそうです。
 
では、どうやって撤去したのでしょうか?
なんとEOD(爆発物処理班)による撤去、すなわち“人の手”による撤去がそのほとんどだったそうです。
 爆発物処理班の活躍を描いた映画と言えば「ハート・ロッカー」がつとに有名ですが、陸上においても困難な作業を海洋で行うなんて、死と常に隣り合わせの過酷な任務であったことは容易に察しがつきます。
 
この機雷掃海部隊派遣をきっかけにした自衛隊のPKO活動への取り組みは着実に日本の国際的評価を支える一つの大きな土台になっていると言えます。
 
■撃たない国防 
また海外での活躍のみならず、国内における災害救助での活躍も近年目覚ましいものがありますが、実はあまり報道されていない活動も多数存在しているようです。
 
例えば東日本大震災によって福島原発事故が発生した当時、極秘裏に「石棺化作戦」というものが計画されていたそうです。
ホウ酸とコンクリートの「石棺」で原子炉を封じ込めようという作戦で、そのために陸上自衛隊きっての精鋭落下傘部隊、第1空挺団を投入することも検討されていたのだとか。また、2号機の屋上に降り立ち、建屋内に入って原子炉に対し、ホウ酸を直接まく作戦も検討していたのだそうです。

 
この作戦は原発の温度が低下したことを受けて、実施には至らなかったそうですが、もし実施していたとしたら、確実に隊員の人たちも大量の放射線を浴び、被ばくしていたのではないでしょうか。(実行に至らずに済んで本当によかったと思います。)
 
これらは自衛隊が行った任務のほんの一例に過ぎず、危険で、過酷な環境下での任務を日々黙々とこなしているのだそうです。
 
こういった自衛隊員の姿、「この国には、国や国民を守るために、自らやその家族が犠牲になっても献身する者がいる」ということが、日本に対して侵攻を企てようとする国に対する大きな抑止力を果たしているのだと、著者の桜林さんは指摘します。
  
戦争や国防というといわゆる軍事兵器やミサイル、実弾が飛び交うようなものを思い描いてしまいますが、そうではない“撃たない国防”というものも確実に存在し、それを体現しているのが、今日の自衛隊なのだなと感じさせます。
  
■足を縄で縛られたサッカー選手 
“撃たない国防”-。
これを体現している自衛隊は称賛されて然るべきですが、やはり“撃たない国防”には限界があるのも歴然たる事実と言えます。
 
特に中国による日本の領空、領海を侵犯は年々激しさを増しており、スクランブル発進した自衛隊機が中国軍機から攻撃動作を仕掛けられるという事態も現実に発生しています。
 
このような事態にあって、現状の法整備のままでは、反撃することすらままならないのが現状であり、国防・安全保障に詳しい評論家の江崎道朗先生も

「日本だけ足を縄で縛られた状態で、かつ相手のエリアに入ってはいけないとされている中で、サッカーをしているようなものだ」

と指摘しています。
 
こういった状況を一刻も早く改善しなければ、“不測の事態”がいつ発生してもおかしくないのではないでしょうか。
 
特に自衛隊については、法的制約の決め方として、やっていい事を列挙する<ポジティブリスト方式>ではなく、やってはいけないことを決める<ネガティブリスト方式>への転換が急務と言われています。

 
常に想定外を想定しなければならないため、やっていいことを列挙する<ポジティブリスト方式>では、本質的に対応が間に合わないのだとか。
そのため自衛隊以外の各国は押し並べて<ネガティブリスト方式>を採用していると言われています。
 
「足を縄で縛られた状態」を打破するためにも、一刻も早い<ネガティブリスト方式>の採用が待たれます。
 
■後顧の憂いを無くせ ~自衛隊員を取り巻く劣悪な待遇~
最後に、本書では、

・トイレットペーパーが不足しており自腹で購入するケースも多々発生していること
 
・転勤がある毎に貯金を切り崩さなければならない引っ越し貧乏状態であること
 
・退官後の再就職先がないこと


等々の自衛隊員の日常の待遇面、家族へのサポート、退官後のキャリアデザインについての不備が指摘されています。
 
それ以外にも自衛隊の官舎は築40年以上のボロボロの官舎であることはつとに有名で、震災などがあった時は、真っ先に自衛隊の官舎が倒壊しそうですし、また小さい子供を持つ家庭では保育園の確保や、一時預かりが出来る場所の確保も大きな悩みのタネとして抱えているようです。
さらには北海道など寒冷地への転勤が決まった時などはマイカーを寒冷地仕様する必要があり、泣く泣くマイカー買い換えたという話も聞きます。
 
日ごろから、死と隣り合わせの危険な任務を遂行して下さっている、自衛隊員の方々に対して、このような待遇しか提供できていないのは、もはや「人道に反するレベル」なのではないでしょうか。
 
“防衛費増額”と言うと大仰なものに聞こえますが、自衛隊員への待遇改善、ご家族の支援のため、人手不足(現状では定員数の90%程度)解消のための増額なのであれば、もっともっと増額、2倍にしても足りないのではないかと思える様相です。
 
そのためにも経済成長は必須条件なのでしょう。
たしかに不況の時ほど公務員の人気が上昇する、応募人数が増えるという傾向はありますが、所詮それは一時的なものに過ぎず、ここで取り上げられているような後方支援、待遇改善などは経済成長がなければ到底実現し得ないのではないでしょうか。
  
自衛隊が“自分ではない誰かの為に”日夜、死と隣り合わせの任務に従事していること、それに反して、憲法や自衛隊法などの法的な部分においては“足を縄で縛る”が如く自衛隊を束縛していること、また、現場の自衛隊員の待遇面の改善は抜き差しならないレベルになっていること。
 
これらのことがよく分かる一冊として、ぜひ多くの方々に読んで頂きたい一冊です。
 
おススメです!

 

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